日本語の時間は文末の述語で表され、現在形「する」と過去形「した」があります。
現在形「する」は非過去形とも呼ばれ、現在の習慣や未来を表します。
現在進行中のことは継続形「している」で表します。
現在の習慣
犬は毎日えさを食べる。
未来
犬はこれからえさを食べる。
現在進行中
犬が今えさを食べている。
一方、過去形「した」は過去だけでなく、完了も表します。
過去
犬が昨日えさを食べた。
完了
あ、犬が今えさを食べた。
これらは、ルールを守らないとおかしなことになってしまいます。
例えば下記のように。
・犬がこれからえさを食べた。(時間は未来で動詞は過去形)
・犬がきのうえさを食べる。(時間は過去で動詞は現在形)
文がつながっていても、同じ時間に支配されていれば、文末の形は同じになります。
・時間に合わせて現在形か過去形かを決めないと不自然な文になる。
・同じ時間の複数の文が連続する場合、文末をそろえて一貫させることで、リズムが出る。
文末を過去形「した」で統一すると、リズムは出ますが、単調になりがちです。
その単調さを防ぎ、描写に臨場感を持たせるために、過去形に現在形を交ぜる手法もあります。
例えば、下記の文章の「修正前」と「修正後」を比べてみてください。
修正前
年の離れた弟と、近所の雑木林にクワガタを捕りに行った。
久々のクワガタ捕りに、かつての昆虫少年の血が騒いだ。
早朝、5時半ごろ雑木林のなかに入った。
空気がひんやりしていて気持ちがよかった。
なかなか見つからなかったのだが、そのうち樹液の出ているウロのまわりにノコギリクワガタが2匹止まっていた。
逃げられないようにそっと指でつまんで、かごの中に入れた。
弟も見つけたようで、嬉しそうに駆け寄ってきた。
見ると、手には大きなカブトムシのオスが握られていた。
よくやったなと声をかけたら、嬉しそうな顔をした。
修正後
年の離れた弟と、近所の雑木林にクワガタを捕りに行った。
久々のクワガタ捕りに、かつての昆虫少年の血が騒ぐ。
早朝、5時半ごろ雑木林の中に入った。
空気がひんやりしていて気持ちがいい。
なかなか見つからなかったのだが、そのうち樹液の甘いにおいを放つ1本の木を見つけた。
その木の裏を覗き込むと、いるいる。
樹液の出ているウロのまわりにノコギリクワガタが2匹止まっている。
逃げられないようにそっと指でつまんで、かごのなかに入れた。
弟も見つけたようで、嬉しそうに駆け寄ってきた。
見ると、手には大きなカブトムシのオスが握られている。
よくやったなと声をかけたら、嬉しそうな顔をした。
「血が騒ぐ」「気持ちがいい」は、書き手の感じたこと、すなわち心の動きを表しており、現在形のほうが落ち着きがよさそうです。
一方、「いるいる」「止まっている」は書き方がその場で目にしたことを表しており、現在形でおかしくありません。
最後の「握られている」も、書き手が目にしたことを表し、かつ、段落のなかほどの文であり、現在形でも通用しそうです。
上記のような修正が、過去形の文章に現在形を交ぜるコツです。